未来農業創造人

目指した養豚の一貫経営

3代で養豚業を確立

写真:七木田一也さん
七木田一也さん

紫波町の東部は、平坦な水田地帯と果樹畑の丘陵が広がり、美しい農村風景を創り出している。のどかな田園風景の中にある七木田ファームを訪れると、艶やかな肌色の豚が賑やかな鳴き声で迎えてくれた。防疫対策に人一倍神経を使っている豚舎は清潔に管理され、家族以外は近づくことができない。

「豚をやり始めたのは祖父と父の代から。当時、管内で豚を飼っている農家は100軒以上あり、農協の部会も300人くらいの大所帯でした。うちは雄豚を飼って近隣の種付けをしていたんです」と七木田一也さんは振り返る。しかし、その後は豚の病気なども騒がれ、次第に養豚農家は減っていく。そして、いよいよ七木田さんが勤めを辞めて就農したとき、「この仕事ではもう成り立たない。300万円をやるから自分で好きなように養豚をやれ」と親から言い渡されたという。

「種付けをして子豚が生まれると市場に出す。私は子供の頃からトラックに乗せられ、子豚市場の活気を見てきた。ずっとこの仕事をやると決めていたから辞めるわけにはいかなかった」と七木田さんは力を込める。弱冠21歳、母豚20頭からのスタートだった。養豚農家が減っていく中、獣医の指導を仰ぎ、時には豚舎で寝泊まりするほど無我夢中だった。自分の給料分も取れなかった経営が、5年目に軌道に乗り始めた。 経営の安定に結びついた理由は販路の開拓にある。従来の取引に加え、『いわて生協』とも取引を開始。「経営が安定してくれば規模拡大も可能になる。平成2年に全量、『いわて生協』との取引を開始してから母豚を60頭まで引き上げ、現在までそのスタイルを通している」と言い、平成9年に100頭に増やして一貫経営を確立。翌年に有限会社「七木田ファーム」を設立し、現在の出荷頭数は年間2,600頭余り、母豚数は常時100 頭を飼育している。

家族で6次産業化も視野に

現在、取引の中心である『いわて生協』とは、安全・安心でおいしい豚肉を届けるために生産者の代表として交流し、定期的な勉強会も開催している。「消費者グループに呼ばれ、どういうふうに豚を育てて、どのような経路で商品をお届けしているかを話す機会もあります。生産者である我々も勉強は怠れないから、養豚部会では技術力のアップ、JAや飼料会社の人からの情報収集に努めている」と、七木田さんは生産者としての誇りを忘れない。

写真:管理が徹底された豚舎
管理が徹底された豚舎

養豚業を始めて30年余り、直面する課題は幾つかある。「当初は100頭なら家族で一貫経営ができると試算したが、今は同業者がいなくなり、飼料代が高騰する中での経営は難しい。そうなると選択肢は2つになる。1つは潔く撤退すること、もう1つは規模拡大です」と厳しさを語りながらも、その口調は決して暗くない。「県北の農場に勤めている息子がいずれは帰ってきたいと言っているんです。それが規模拡大のチャンスかなと。次男は食肉加工会社で働いているし、娘は会計を学んでいる。子供たちが帰ってきたら一緒に6次産業化の方向も考えられる」と、新たな展開を構想中だ。

写真:元気に育つ子豚
元気に育つ子豚

養豚業のほか、七木田さんは水稲2.9ha を耕作しており、近隣の農家4軒との「結いっこ」を大事にしている。「種まき、田植え、刈り取りを共同作業にして、じいさんばあさんも一緒にみんなでわいわい働く農業の流れを失くしたくないんだよね。いまだに俺は、ここでは〝わげもの(若者)″と呼ばれているんだから」と、笑顔で語ってくれた。

プロフィール

七木田一也さん

1964年紫波町生まれ。盛岡農業高校を卒業後、1年間岩手県畜産試験場の研修生を経て岩手県立農業短期大学校の実習助手として2年間勤務。1985 年、21歳で就農。1998年㈲七木田ファームを設立し、代表取締役に。現在、岩手県農業農村指導士、JA畜産部会養豚専門部会部会長、アイコープ豚生産者の会会長、長岡西部農業生産組合副組合長を務める。

JAへの要望

JAの養豚部会は新規参入も少なく、一握りの人員しかいません。専門的な技術もさることながら、まずは養豚をやりたいという意欲が持てるような人づくりに力を入れていただきたい。養豚業も今は衛生管理も徹底しており、汚い、臭いというかつてのイメージを払拭して、やる気を起こさせるためには積極的な情報提供も大事だと思います。

JAいわて中央 東部支所

住所
〒028-3312
紫波郡紫波町犬吠森境108−3
電話番号
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