未来農業創造人

農業の未来のために理想を叶え続ける

挑戦も失敗も若手のうちに

写真:櫻田大河さんと妻の沙羅さん
櫻田大河さんと妻の沙羅さん

雫石町で菌床シイタケを中心に生産している櫻田大河さんは、今年で27歳になる若手農業者だ。高校卒業後は農業大学へ進学するという選択肢もあったが、櫻田さんの家では祖父母が農業を営み、両親は違う仕事に就いている。農業を生業にすると決めている以上、早いうちに祖父母から学んでおきたいと考えた大河さんは、高校卒業と同時に就農し平成28年3月には認定新規就農者として独立。現在は8棟のハウスで菌床シイタケの栽培を行うほか、水稲や和牛の繁殖なども手掛けている。これらの事業が「さくらだファーム」における3本柱となるのだが、その説明をしながら大河さんは、何度となく「やりたいことがたくさんある」という言葉を口にした。

「若いうちにやりたいことは全部やっておきたいと思っていますし、祖父母が元気でいてくれるからこそ、いろんなことに挑戦できる。自分にとって家族はとても有り難い存在です」と語る。

また、独立の翌年に結婚した妻・沙羅さんの存在も大きい。沙羅さんは結婚するまで農業に触れたことはなかったが、ものづくりと動物が好きということもあり、農家へ嫁ぐことへの不安は感じなかったという。そんな沙羅さんにとって、これまで経験したことのない農業の世界は驚きの連続。「今でも毎日、新しい発見があります」と言って笑顔を浮かべた。農業未経験の沙羅さんだからこそ気がつけることもあり、大河さんとしても自分とは違う沙羅さんの視点に助けられることも多いという。

県産品として差別化を目指す

「さくらだファーム」が作る菌床シイタケは、肉厚でぷりっとした食感が特徴。水や温度差が刺激となって発生する菌床シイタケにとって、ハウス内の湿度や温度の管理は重要なポイントだ。「さくらだファーム」では半数以上のハウスが無加温で、冬こそ温水配管の設備を使ってハウス内を温めることができるが、夏になると外気温が上昇するため温度調節が難しくなる。高温障害を起こさないよう注意を払うが、設備自体の更新も視野に入れた環境改善を検討している。

また令和3年には、以前から目標としていた菌床ブロックを自家製造する施設として菌床センターを建設。地域の生産者は大半が他県から菌床ブロックを購入しているが、岩手県産のキノコとして販売するためには菌床ブロックも含めて県内で生産されたものでなければならない。新しく建てた菌床センターで、いずれは雫石町における全ての菌床ブロックを製造し、地域全体として他商品との差別化を図る狙いだ。

現在は新型コロナウイルス感染症の影響もあって、菌床シイタケの収入が安定しているとは言い難い。しかし、だからこそ今の状況を「自分たちの農業を拡大するチャンス」と捉え、SNSを使った販路拡大などの取り組みも積極的に行っている。こうした姿勢を支えるためのモチベーションとして家族はもちろん、岩手県農協青年組織協議会での活動も、大きな気づきと刺激を与えてくれると大河さんは語る。

写真:「クセがなく子どもも残さず食べる」と評判の菌床シイタケ
「クセがなく子どもも残さず食べる」と評判の菌床シイタケ

新規参入しやすい体制づくり

「岩手県農協青年組織協議会は佐藤崇史会長をはじめ、優しくて話しやすいメンバーばかりです。意見交換会は日頃、話す機会のない人たちに自分の意見を直接伝えられる良い機会ですし、いろんな人の話を聞くだけで勉強になります」

そう語る大河さんは、今年6月に行われたJA担い手金融リーダーとの意見交換会において、「それぞれの生産者が考えている事業計画を、JAの担当者には知っておいてほしい」という意見を出した。事業を拡大させていく上で資金の相談をしたくなるタイミングは必ず来る。必要な時に必要な情報が入るよう、JA担い手金融リーダーにはこちらの状況を知っておいてほしいという考えだ。また資金面で頼れるサポート体制が整っていれば、農業を始めたいと思っている若い人たちも安心して飛び込むことができるのではないか、という思いもある。

近い将来、法人化することも視野に入れているという大河さんだが、その目的の背景には地域に雇用を生み出したいという将来への明確なビジョンがあった。

「自分たちがいろんなことに挑戦する姿を発信することで、少しでも多くの人が農業に興味を抱くきっかけになってくれればと思っています。それと同時に目指すのは、福利厚生など職場環境を整えることによって、学生が就職先を考える時に農業が一つの選択肢になるということ。こうした取り組みを続けていくことで仲間を増やし、農業をきっかけにこの町で暮らす人たちが増えてくれれば嬉しいです」

認定新規就農者となって5年が経ち、これまで多くの理想を実現させてきた大河さん。これからも大切な家族とともに、一つ一つ夢を叶えていく。

写真:「たとえ一頭だけになっても牛は飼い続けたい」と言う櫻田夫妻
「たとえ一頭だけになっても牛は飼い続けたい」と言う櫻田夫妻

プロフィール

櫻田 大河さん

平成6年雫石町生まれ。岩手県立雫石高等学校卒業。卒業と同時に実家で働きながら、3年間かけて菌床シイタケや水稲、和牛の繁殖など家業について学ぶ。平成28年3月に認定新規就農者となり、独立。現在は地域の雇用促進も視野に、「さくらだファーム」の法人化を目指している。