未来農業創造人

夢を、夢物語で終わらせないために

土地によって異なる栽培方法

写真:五日市達洋さん
五日市 達洋さん

五日市さんは兄二人と姉一人、4人兄弟の末っ子として生まれた。子どもの頃から自然と家業であるまとば農園の仕事を手伝っていたという。中学生の頃から将来は農園を継ぐことを考え始め、青森県立名久井農業高等学校、青森県営農大学校へと進学。リンゴの生産量日本一を誇る青森県で栽培方法や剪定作業について学び、現在に至っている。

2年制の営農大学校では剪定作業の実習が一度しかなかったことや、青森県と岩手県ではリンゴの木の仕立て方に大きな違いがあったことから、就農して数年は剪定作業に苦労した。より多くの収量を目指す青森県では、木と木の間隔を狭めて樹高を高くする高密栽培を採用するケースが多く見られるが、岩手県では低木によるわい化栽培が一般的。営農大学校で触れてきたリンゴの木とは、全く違うものを作っているように感じられた。

今は盤石な体制を整える時

就農して2~3年くらいは剪定の正解がわからず、判断に迷った枝には目印をつけておき、収穫の段階で切るべきだったか否かを確認するという試行錯誤を繰り返した。こうした経験の積み重ねによって順調に収量を伸ばし、今年は1万体の「はるか」に袋をかけて、糖度基準17.0度以上、蜜入り指数3.0以上の「冬恋」に育てていく計画だ。しかし全国的に霜の被害が多い年でもあり、平年以上の収量は期待できず、実に水分が付着することなどが原因で起きる「サビ」も多い傾向にある。

こうした毎年の状況について、岩手県農協青年組織協議会の副会長でもある五日市さんは、県内の農家と積極的にコミュニケーションを図ることで情報収集に役立てている。

「人と交流を持つことは日頃から意識しています。何か困ったことが起きた時、すぐに聞ける相手がいる環境はとても貴重なものだと思いますし、そのような環境がスタンダードになれば岩手の農業はさらにグレードアップすると考えています」

現在は新型コロナウイルス感染症の影響から、さまざまな活動を自粛せざるを得ない状況にある。だからこそ今は、県内青年部の盟友(構成員)との絆を盤石なものにしたいという思いがあった。

「どんな状況下でも、できることは必ずあります。その中で盟友とのコミュニケーションを深めていき、アフターコロナを迎えた新しい時代に、より良い形で対応できるよう取り組んでいきたいです」

写真:照りつける日差しの中、丁寧に袋掛け作業を行う
照りつける日差しの中、丁寧に袋掛け作業を行う

金融面からも的確なサポートを

6月9日にwebを併用して行われたJA岩手県青年部委員長・事務局合同会議において、JA担い手金融リーダーとの意見交換会も開催された。そこで五日市さんからは、各農家が抱いている“目指している将来のビジョン”についてアンケートをとり、それをもとに、それぞれの状況に合わせた設備投資などの相談をしていくのが良いのではないかという意見を出した。

「農業の生産拡大には将来へのビジョンが必要不可欠です。しっかりとした計画を立てた上で投資し、前進することが大切で、その伴走者としてJA担い手金融リーダーがいてくれるととても心強いです。JA担い手金融リーダーは金融のプロなので、その立ち位置から見える農家が挑戦すべきこと、慎重になるべきことなどのアドバイスがもらえれば、今よりもさらに効率的かつ着実に各農家が発展できるのではないかと思います」

そう語る五日市さんが数年前から取り組んでいることは、通年雇用スタッフの受け入れやブランドの確立を行うための土台づくりだ。通年雇用のスタッフがいれば、五日市さんは剪定などリンゴの品質に直接関わる作業に集中することができる。また、収量において青森県や長野県に追いつくことが難しい岩手県にとって、品質にこだわり抜いたブランドの確立は達成すべき重要な課題でもある。

実は昨年、五日市さんが作ったフジが糖度20を超えた。そのフジを携えて、毎年青森県で開催されている「りんご王者決定戦」に出場したかったのだが、新型コロナウイルス感染症の影響で大会は中止。今年こそは出場し、全国のリンゴ農家の中で自分が今、どの位置にいるのかを確認したいと語る。

さらに現在、世界的に取り組まれているSDGsについて青年部でも取り上げなければならないと考えている。持続可能な未来のために農業がなすべきことは何か。SDGsの項目を仲間とともに確認しながら探っていきたいとしている。

五日市さんは「こうした将来のビジョンを夢として語るだけでなく、一つずつ実現していくことが重要だと思っています。そのためにも青年部やJAなど、さまざまな人たちと連携しながら進んでいきたいです」と語った。

写真:五日市さんの農園でとれたリンゴを使ったジュース
五日市さんの農園でとれたリンゴを使ったジュース

プロフィール

五日市 達洋さん

1993年二戸市生まれ。青森県名久井農業高等学校卒。青森県営農大学校でリンゴの栽培方法や剪定などを学んだ後、実家のまとば農園で就農。現在は岩手県農協青年組織協議会の副会長を務めるとともに、農業をより発展させていくためにさまざまな取り組みを計画している。