未来農業創造人

西和賀町に元気と刺激を与えたい

次世代へつなぐため法人を設立

写真:髙橋裕之さん
髙橋裕之さん

中学生の頃から実家の農業を継ぐと決めていたという髙橋裕之さん。そのきっかけは小学生の時に父が、中学生の時に祖父が他界したことにある。残された農地を守りたいという思いから、祖父の兄弟に力を貸してもらいながら農業を続け、岩手県立農業大学校を卒業すると同時に跡を継いだ。

どの農家にとっても後継者不足は悩みの種。髙橋さんが住む沢内地区太田集落でも、若手農家の数は少なかった。そんな中、「このままではいけない」という思いを持った農家が集まり結成されたのが、農事組合法人アースコネクトだった。

アースコネクトが結成されたのは、平成28年1月のこと。ちょうどその頃、西和賀町ではおよそ40年ぶりとなる水田基盤整備事業が始まろうとしていた。区画整理などによって農業の生産性を飛躍的に向上させるこの事業は、農家を営む先輩たちが次世代のためにと奔走して実現したものだ。これを受けて太田集落の若手農家たちが、集まり、自分たちも次の世代へつなげるためにできることをと話し合った。1年以上もの時間を費やして協議を重ね、最終的には髙橋さんを含めた4人の若手農家たちと、60代の先輩農家3人とが設立メンバーとなってアースコネクトを結成した。

アースコネクトは今年で4期目を迎え、現在では受託を含めて80ha近くの農地を管理している。そのうちメインとなるのが50ha以上を占める水稲で、ほかに蕎麦や大豆、リンドウなどを生産。さらに今年はメンバーの家で生産していた菌床椎茸を引き継ぎ、新たな農産物として加えた。

髙橋さんは「仲間と一緒に仕事をすることで作業を分散することができるし、何より気持ちの上での負担が軽くなりました」と語る。

長期的な視野を得た経営塾

経営塾に参加したのは、ほかの土地で農業を営む先輩に誘われたことがきっかけだった。声をかけられた時は「自分は経営に大きく関わっているわけではないし、ほかの人が出席した方が良いのでは」との思いがあったが、今となっては参加して良かったと感じている。

これまで経営指針や、何のために経営をしているのかについて具体的に考えたことはなかった。しかし経営塾に参加したことでそれに気付き、さらにこれから先「自分たちがどんな会社にしていきたいのか」という将来の目標を明確にすることが重要だと知ることができた。目先のことだけでなく長期的な目標を定めて仕事に取り組む。そうすることで、より可能性が広がっていくことを学んだという。

しかし、経営塾で教わったことを職場にフィードバックすることの難しさも実感していた。上手く伝えられずもどかしい思いもあるが、今後ほかの仲間にも経営塾に参加してもらうことで自分たちに合ったやり方を見つけられるのではと、髙橋さんは期待を寄せている。

アースコネクトは設立当初に比べて農地面積が拡大しているため、時期によっては人手不足になることも多い。特に田植えと大豆の播種や、稲刈りと蕎麦や大豆の刈り取りが重なる時期には、夜になってもその日の作業が終わらないこともある。そうした課題を解決するヒントを得るためにも、経営塾を受講したことは良い経験になったと髙橋さんは言う。

「同じ農業経営者の話しを聞くこと自体が、とても良い刺激になります。今はまだ仕事が忙しくて難しいけれど、なるべく時間を作って研修会などにも参加していきたいです」と、今後に向けて意欲をのぞかせた。

写真:米は「ふるさと納税」の返礼品としても高い人気を誇る
米は「ふるさと納税」の返礼品としても高い人気を誇る

より良い職場環境を実現するために

繁忙期の人手不足もさることながら、アースコネクトでは機械装備に関する課題も大きい。ここまで設立当初と変わらない装備でやってきているものの、拡大した農地に対応することが難しくなってきているのだ。とはいえ、装備を更新するとなるとかかる費用も大きく、なかなか踏み切ることができない。

またそのほかに、乾燥調製施設を建てることも検討している。現在はメンバーがそれぞれ持っている乾燥機を使って作業を行っているが、これを一か所に集約することで効率的に進めることができる。少しずつでもできる所から着手し、より良い職場環境を整えることが目標だ。

髙橋さんは農業を持続させていくためには、経営努力だけでは解決できない課題がたくさんあるという。農業は農産物を生産するだけでなく、地域の水資源や景観を守り、そこに住む人たちが安心して暮らせる環境を整えることにもつながっている。そしてそれを次世代へと繋いでいくことこそが、農業が持つ重要な役割なのではないか。

髙橋さんはこれからの目標として「安定した生産はもちろん、地域の人たちから信頼される会社として成長し、西和賀町に元気と刺激を与えられる存在になりたい」と語ってくれた。

写真:雨が降らないうちにと、総出で稲刈りを行う
雨が降らないうちにと、総出で稲刈りを行う

プロフィール

髙橋裕之さん

1981年西和賀町生まれ。県立西和賀高校を卒業し、県立農業大学校へ進学。水稲を中心に学び、卒業後は実家の農業を継いだ。現在は農事組合法人アースコネクトの設立メンバーとして約80haほどの農地を管理し、水稲や蕎麦、大豆などを生産。今年は菌床椎茸の栽培も開始した。